解析(故障/良品)・観察・分析

MEMSの良品構造解析

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とは、半導体製造技術を使って、機械的な部品を作ることからスタートした技術で、シリコンなどの半導体基板上に、3次元的可動構造体を利用したセンサやアクチュエータを形成します。機械の小型化・集積化を図れることが最大の特徴です。これからの産業に革新をもたらす先進技術の一つとして注目を集めており、実際に、加速度センサ、ジャイロスコープ、圧力センサ、車載エアバック、ナビゲーションシステム、インクジェットプリンタ、携帯端末、DWDM用光コンポーネント、バイオメディカル等、多様なアプリケーションで実用化に向けた取り組みがなされています。
MEMSは、ICのシリコン加工プロセス(シリコン基板に対して、エッチングや薄膜形成を加えるプロセス)を用いて製造される非常に微細な構造体を用いたシステムで、その大きさはコンポーネントで5-100μm、デバイスでも数mm程度となります。当社ではMEMSの構造をOKIエンジニアリング独自の良品構造解析技術「LSIプロセス診断」を応用し、詳細に検査・解析することで製品の品質評価を実施、機種選定、メーカー選定に有効な信頼性情報をご提供いたします。

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の仕組みと信頼性評価の現状

MEMSは微小な電気機械システムで、半導体プロセスを用いて一つのチップ上にセンサ、アクチュエータ、電子回路などのすべて、または一部を統合化したものです。各種の最終製品に組み込まれ、高付加価値のキーデバイスとなっています。

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の仕組み
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の仕組み

MEMSの製造には半導体集積回路の製造技術が多用され、半導体デバイスの構造解析法による信頼性評価手法は有効ですが、MEMS特有の機械的構造、故障モードにより、従来の半導体デバイス構造解析手法をそのまま活用することは困難です。また、MEMSデバイスの構造は多種多様なため、それぞれのデバイスに応じた評価手法が必要です。当社は既に実績のあるLSIプロセス診断のノウハウを、MEMSデバイスの信頼性評価に対して活用させ、MEMSデバイス特有の解析上の問題点(試料サンプリング技術、観察技術、解析項目、信頼性上の着眼点等)を解決、検討を行い、MEMSデバイスのプロセス評価システムを新たに構築しました。

MEMSデバイスの構造評価システムの概要について

MEMSデバイスを評価するにあたって基本とした手法はLSIプロセス診断法です。LSIプロセス診断法は、アセンブリプロセスからウェハプロセスに至るまで検査項目を設けています。

MEMSデバイスの検査項目 アセンブリ工程検査

MEMSデバイスの検査項目 アセンブリ工程検査内容
MEMSデバイスの検査項目 アセンブリ工程検査内容

アセンブリ工程検査の内容は、外観検査透過X線検査内部検査の3項目です。外観検査では、パッケージ表面の傷やバリ、アウターリードの状態等を検査します。次に、透過X線検査では、内部組立構造の状態、ワイヤボンディング状態、インナーリード状態等の検査をします。その後、モールド樹脂の開封を行い、内部検査として、ワイヤボンド接続状態、チップ表面のクラックや封止異常の有無を検査します。最終的にDPA(破壊的物理解析)MIL-STD-833をベースとした、過去の解析事例に基づいた基準により、合否を判定します。

MEMSデバイスの検査項目 ウェハプロセス検査内容

MEMSデバイスの検査項目 ウェハプロセス検査内容
MEMSデバイスの検査項目 ウェハプロセス検査内容

ウェハプロセス検査の内容は、構造部検査として、内部構造体の形状異常、異物の存在の有無等を検査します。LSIの場合には、内部構造検査はチップ表面の検査を行うのみで十分でしたが、MEMSデバイスの種類によっては、構造体が中空に保持されているものもあるため、表面の検査だけは不十分であり、裏面の構造部検査も同様に行うことが必要となります。構造部検査の後、LSIの場合と同様に断面SEM検査断面TEM検査を行います。MEMS構造体の概略図のように、構造体内に可動部が存在しています。特に可動電極を支持する箇所や、根元のバネ部には応力が集中すると考えられ、この部位の結晶欠陥の有無はデバイス品質に大きな影響を与えると考えられます。このため、支持体部の結晶欠陥の有無について、断面検査よりも広範囲で検査することが可能である平面SEM検査および平面TEM検査を検査項目に組み込みました。最後に、LSIプロセス診断法の事例に基づき、デバイス品質への影響度合いを考慮した評価基準により、診断を行います。

MEMSデバイス特有の構造への対応

MEMSデバイスの構造部検査

チップは内部構造体がSiキャップ等に覆われた状態となっている場合があります。このため、内部の構造体を観察するにはSiキャップの除去が必要となりますが、機械研磨による除去や、封止部からの剥離の手法では内部にダメージが入り、内部構造体は容易に破壊されてしまいます。当社では、できるだけ構造体を破壊しないSiキャップ除去手法により、内部への影響を最小限にすることが可能です。

MEMSデバイスの構造部検査の写真

MEMSデバイスの赤外顕微鏡検査

現状では、完全にダメージのないSiキャップ除去技術は未確立であります。このため単体化したチップについて非破壊状態での内部構造体の観察が可能となる赤外顕微鏡検査を、ウェハプロセス検査の予備調査として検査工程に組み込んでいます。下記はSiキャップ除去前後のチップ内部構造体の様子です。黄色い点線が対応した構造となっています。そして、赤い丸印に注目しますと、Siキャップを除去した後の光学顕微鏡像では、Siキャップを除去する前には見られない構造体の欠損が見られることがわかります。このようにSiキャップ除去前後で構造比較を行うことにより、内部構造異常の要因が、製造要因に起因するものであるのか、開封ダメージによるものであるのか、切り分けが可能となります。

MEMSデバイスの赤外顕微鏡検査の写真

2軸加速度センサMEMSデバイスの良品構造解析例

2軸加速度センサの表面構造部検査

2軸加速度センサMEMSデバイスの表面構造部検査
2軸加速度センサMEMSデバイスの表面構造部検査

表面構造部検査により静電容量検出方式であることが確認されます。製造プロセスについては、主に成膜プロセスで形成するサーフェイスマイクロマシニングによるものです。その為、制御部とセンサ構造部が同一ウェハプロセスで製造されていることからセンサ構造部と同時に制御部の評価も必要となりますが、制御部の評価については、従来のLSIプロセス診断で評価可能です。構造体については多結晶Siであることが確認されました。

2軸加速度センサの断面SEM検査

2軸加速度センサの断面SEM検査の写真

2軸加速度センサの断面SEM検査の結果、構造体表面に配線パターンは確認されませんでした。

2軸加速度センサの断面TEM検査、平面TEM検査

2軸加速度センサの断面TEM検査、平面TEM検査の写真

2軸加速度センサの断面TEM像検査、平面TEM像検査の結果、構造体の結晶状態等に異常は観察されませんでした。

3軸加速度センサMEMSデバイスの良品構造解析例

3軸加速度センサの裏面構造部検査

3軸加速度センサの裏面構造部検査の写真

3軸加速度センサのMEMS構造体は中空に浮いていることから、裏面も調査します。構造体の裏面には、エッチングガスの回り込みによる構造体の凹凸と薄膜状のエッチング残渣物が観察されました。 構造体の凹凸や残渣物は、脱落した場合、可動部に挟まる等してMEMS機能に障害を与える可能性が考えられます。

車載用MEMSジャイロの良品構造解析例

車載用MEMSジャイロの外観検査

車載用MEMSジャイロの外観検査写真
車載用MEMSジャイロの外観検査写真

外観検査では変色、変形等の不具合は検出されませんでした。

車載用MEMSジャイロのX線検査

車載用MEMSジャイロのX線検査の写真

MEMSの場合、内部構造が複雑であるため通常の透過観察では構造の重なりが多く、内部構造の変形等の不具合は検出されませんでした。しかし、X線CT検査では、複雑な内部構造を詳細に把握可能で、積層セラミックパッケージ内のコンタクトにボイドが多数、検出されました。

車載用MEMSジャイロのパッケージ開封検査

車載用MEMSデバイスのパッケージ開封から光学顕微鏡による内部検査
MEMSデバイスのパッケージ開封から光学顕微鏡による内部検査

今回パッケージ開封したMEMSデバイスはパッケージキャップコーナー部に微小な開口部を作り、メタルキャップを缶のように剥離しました。MEMSの内部検査(光学顕微鏡)の結果、パッケージに軟質樹脂でメタルベースが固定されており、このメタルベース上に音叉状の振動ジャイロが搭載されている構造でした。軟質樹脂による固定であるため、メタルベースが樹脂上で容易に稼動することで振動が吸収される設計となっていました。

車載用MEMSジャイロの内部検査(SEM)、パッケージ断面検査

車載用MEMSジャイロの内部検査(SEM)、パッケージ断面検査の写真

車載用MEMSジャイロについてアセンブリプロセスの評価を実施した結果、セラミックパッケージ内部のコンタクトのボイド、軟質樹脂体中のボイドが検出されました。また、メタルベースとベース上のジャイロが軟質樹脂体により支持されているため、内部接続ワイヤへ、機械的ストレスが印可される危険性があることが判明しました(メタルベース部が可動することにより、パッケージからジャイロに接続しているワイヤが変形するため、過度な長期間の振動はワイヤ破断につながる危険性が考えられます)。これらを踏まえ、振動、衝撃試験等を行い、ワイヤへの影響を検証するなどのご提案をいたします。

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